・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Liebestolle 「エーリッヒ、お前キスしたことあるか?」 「……………………………は?」 シュミットの突拍子もない質問に、エーリッヒがやっとのことで出せた声がそんなまぬけなものだった。 寮の一室。シュミットとエーリッヒの部屋。 二人は特に何をするでもなくベッドに腰掛けて何気ない会話を交わしていたはずだった。 「だーかーらー『キスしたことあるか?』って尋いたんだよ」 エーリッヒの反応にキブンを害するどころか、むしろ楽しんでいるような口ぶりでシュミットは質問を繰り返す。 「なっ…………そんなの。あるワケないじゃないですか……っ」 (何で急にそんなコトを……) エーリッヒは真っ赤になってシュミットから目を逸らした。 「あ、あなたはどうなんですかっ?」 「私か?………そうだな。したことないな、そういえば」 自分に矛先が向けられるとは思っていなかったためにしばらく考え込んでから答える。 その答えを聞いて少し安心したような表情を見せるエーリッヒに、シュミットはいたずらっぽく囁きかけた。 「キス……してみようか」 「え……?」 思いもよらなかった言葉にたじろぐエーリッヒの右手にそっと自分の手を重ねると、シュミットはエーリッヒの体をゆっくりと引き寄せた。 「してみたくないか?」 「それは……興味がないと言えば嘘になりますけど…」 その言葉をシュミットは聞き逃さなかった。 さらにエーリッヒを引き寄せると、今度は耳元でエーリッヒを挑発するための言葉を吐きかける。 「するのが怖い?」 「怖くなんかないですよ!!」 「じゃ、いいんだな」 言い終わると同時にシュミットはエーリッヒの唇を塞いでしまった。 「ふ……」 それは軽く重ねるだけですぐに離れたが、エーリッヒには初めての感覚だった。 そっとエーリッヒの顔を覗き込むと、エーリッヒは瞳を潤ませて熱い息を漏らしている。 「エーリッヒ……気持ち良かったか…?」 シュミットの問いかけにエーリッヒは素直に頷いた。 その体はシュミットが支えていないと簡単に崩れてしまいそうだ。 「もう1回…」 先程の余韻にまだ震える唇に再び深く口付けるとさらに角度を変えて今度は舌を割り込ませてきた。 「ん………!」 驚いて抵抗しようとしても震える腕ではその意味を成さず、シュミットが軽く掴んだだけで容易く動きを止められてしまう。 力無くシュミットにもたれかかるような格好になっていた。 エーリッヒは震える手でシュミットの服の裾を握り締め、荒い息遣いの合間にかすれた声を漏らした。 「こ……なの…キスじゃ、ないですよ……」 「これが本物のなんだよ。気持ち良かっただろ?」 「あ……っ」 耳元で囁かれてエーリッヒは思わず体を震わせ、漏れてしまった甘い声に驚いて口元を覆った。 「エーリッヒ?…お前、まさか……」 言いながらシュミットはそろそろと右手をエーリッヒの下半身へと移動させる。そっと触れるとそこは既に熱を持っていた。 「や………っ……」 突然触れられてエーリッヒはびくんと体を震わせた。 「僕……何で、こんな………っ」 自分の体に何が起こっているのか分からずに、今にも泣き出しそうなエーリッヒにシュミットは安心させるように言ってやった。 「大丈夫だよ、エーリッヒ。私が治してやるから……」 もう一度軽く口付けて、その唇をエーリッヒの首筋に滑らせた。 「は…ん……シュミット……」 熱を解放する術を知らず、されるがままになっているエーリッヒをシュミットはベッドに横たえ、シャツのボタンを外しにかかる。 唇は徐々に下方へと移動し、その度にエーリッヒは体を震わせて甘い吐息をその唇にのせる。 エーリッヒの思考はシュミットに直に与えられる快楽によってその機能を完全に停止していた。 その時 「シュミット、エーリッヒ。いるんでしょ?入るよー」 軽いノックの後に続いたよく知っている声に熱に浮かされていた意識が一気に冷め、正常な思考を取り戻していく。 「わぁっっ!!!ミハエル…ちょっと待ってくださいっ」 ドアノブが回される音に二人は慌てて体を離した。 (ちっ……もう少しだったのに……) 内心舌打ちしながらも、まだ体に力が入らないエーリッヒに手を貸して起こしてやった。 エーリッヒはボタンが数個外されたままのシャツの襟を必至で正し、ドアの方に体を向ける。 「遊びにきたよー。二人とも何してたの?」 無邪気に駆け寄ってくるミハエルがシュミットの方にちらりと投げてよこした意地悪そうな視線をシュミットは見逃さなかった。 (どうもタイミングが良すぎると思ったら、そういうことか……このガキ……) 奥歯をギリギリと噛み締めながらもシュミットはそれを悟られないように必至で笑顔を取り繕っていたがその顔はきっと引きつっていたに違いない。 (まぁいい…焦ることはないんだ。じっくり時間をかけてリーダーの入る隙なんか無くしてやるさ) そう思うことでシュミットは何とか平静を保っていた。 しかしこの後もミハエルはことごとくシュミットの邪魔をしてくれたため、結局シュミットが本当の意味でエーリッヒを手に入れられたのはこれより大分先のコトになる。 |