・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Pulverschnee 窓の外に見えるのは ただただ 降り続ける粉雪 ただただ 静かに降り積もり ただただ 辺りを包んでく あの沁み込むような切ない雪音は 君の耳にも届いているのだろうか 「エーリッヒ、寒くないか?」 「・・・え?いえ、別にそんなことはないですけど。」 ベッドの向こうから突然話し掛けられてエーリッヒはもうとうに眠ってしまっていると思っていた相手に意外に思いながらも返事を返した。 相手はエーリッヒの答えを受けてそうか、と言ったきりまた沈黙した。 その反応にエーリッヒはしまったと思った。 シュミットがこんな風な物言いをするときは、大抵自分がそうしたいときなのだ。 ・・・この人はプライドが高いから、言い出せないのだろうけど・・・。 内心ため息を吐きつつ、なるべく不自然にならないように口を開く。 「・・・・・・シュミット、」 少しだけ空気を震わせる声に、背中を向けながらも耳をそばだてているのが分かる。 「あの、やっぱり少し寒いんですけど・・・そっちに行ってもいいですか?」 遠慮がちに訊いてみると、無言で頷いた。 エーリッヒは自分の推測が正しかった事に苦笑しながらそっとベッドから降りた。 途端に冷たい空気に晒された体が悲鳴をあげ、思わず身を竦める。 「寒いなら早く入って来い。」 いつの間にか伸びた手がエーリッヒを捕まえてベッドの中に引きずり込み、その体をすっぽりと包んでしまった。 エーリッヒは居心地悪そうに暫くもがいていたが、やがて諦めたのか大人しく腕の中におさまった。 「暴れなくていいよ、別に何かしようって訳じゃないから。 ・・・・・・まぁ、お前がしたいって言うんならしてもいいが?」 いたずらっぽく耳元で囁かれる声に慌てて首を振る。 顔を真っ赤にして困っているエーリッヒの顔をもっとよく見たくてシュミットはエーリッヒを更に引き寄せた。 その行動を寒さのためだと思ったエーリッヒは心配そうにシュミットの顔を覗き込んでくる。 「・・・そんなに寒いんですか?」 言って、シュミットの背中に自分の腕をまわし、体を密着させることで温もりを与えようとする。 シュミットは敢えて何も言わずにその温もりに甘えることにした。 「そうだな、寒いのかもな。」 ぽつりとつぶやいてエーリッヒを強く抱き締めた。 エーリッヒが苦しそうに少し身じろぎしたが、シュミットはそれに気づかぬ振りをしてやり過した。 「・・・このままずっと、こうして居られたらいいのに。」 それは何の前触れもなく ただ沈黙の中に忽然と小さく響いただけのものだったがエーリッヒは決して聞き逃さなかった。 体をずらしてシュミットと視線を合わせると、無言のまま小首を傾げて問い、じっと答えを待つ。 猫のようなあどけない瞳で、次に続く言葉をじっと待っていた。 シュミットはしかし何も言わず、代わりにそっと冷たい手のひらでエーリッヒの頬に触れた。 エーリッヒはその冷たさに一瞬身を竦ませたが、その冷たい手に自分の温かい手を重ねて 今度は口を開いて問い掛ける。 「シュミット。・・・どうかしたんですか?今日のあなたは何だか・・・」 迷ったように視線を彷徨わせて 「寂しそうです」と漏らした。 シュミットは無言のままもう一方の手を伸ばし、エーリッヒの顔を引き寄せてそっと唇を重ねた。 エーリッヒもそれに逆らわず、黙ってされるがままになる。 唇が離れると、シュミットはまたエーリッヒを抱き締めて、耳元でぽつりと呟いた。 「寂しいわけではない」と。 「うまく言えないんだが、急に不安になったんだ。」 そこで一呼吸おいてエーリッヒを見つめた。 「お前がいなくなったらどうしようって。」 エーリッヒはただ黙って耳を傾けていたが、ふと視線をあげて問い返した。 「どうしてそんな事を?僕はあなたから離れたりしないのに、 何かあなたを不安にさせてしまいましたか?」 シュミットは決まり悪そうに視線を外すと、消え入りそうな声でつぶやいた。 「だって・・・・・・・・・から。」 小さくて聞こえない部分をエーリッヒが聞き返すとシュミットは不機嫌そうな表情を作ってまた黙り込んでしまった。 エーリッヒはその態度に疑問が増す。 シュミットが口篭もっているところなんて滅多に見るものではない。 まださっきの言葉を気にしている様子のエーリッヒを、シュミットはきっと見つめて強硬手段に出ることにした。 これ以上探られるのはごめんだとばかりに。 もう一度、今度は深く、思考を絡めとるようなキスをして 空いた手をエーリッヒの体に這わせると、エーリッヒが敏感に反応する。 「や・・・っ、ウソツキ!、さっき何もしないって言ったじゃないですか・・・っ」 「そのつもりだったが、気が変わったんだ。」 言ってのけるシュミットにエーリッヒは眩暈を覚えた。 ・・・要するにこの話題を避けるための手段なのだ。 「・・・・・・卑怯ですよ、シュミット。」 悔しそうにエーリッヒが漏らした言葉にシュミットも苦笑しながら それでもこの行為を受け入れようとしてくれる寛容な恋人の額に優しく口付けながら心中で独りごちる。 ・・・言える訳ないじゃないか。 引き離されたあの時の事を思い出したら、急に不安になって独りで眠れなくなったなんて。 格好が悪いにもほどがある。 そんな子供っぽい一面を知ってか知らずかエーリッヒはそれ以上の追求は止めて シュミットの思惑通りに考えることを放棄して甘い嬌声で部屋の冷えた空気を満たし、熱い吐息を零した。 窓の外に見えるのは ただただ 降り続ける粉雪 ただただ 静かに降り積もり ただただ 辺りを包んでく あの沁み込むような切ない雪音は 君の耳にも届いているのだろうか 僕の心に響くように 君にも聴こえているのだろうか |